安藤日出武-4 志野茶碗 正面 [志野]
岐阜県多治見市の仙太郎窯の陶工・安藤日出武(1938-)の志野茶碗です。安藤日出武の茶碗を紹介するのは、これで四つ目です。写真では、私の好きな面を正面としています。ここを正面とすると、高台脇の掻き銘は向かって右90°の位置に来ます。
胴から腰にかけて少し膨らんだようなふくよかなシルエットは、安藤日出武の茶碗で良く見かける形です。適度な重量感と落ち着きがあり、かと言って緊張感が全くない訳でもなく、絶妙な形をしています。釉景には立体感がさほどないですが、長石釉のマットな白に少なめの気泡と緋色がバランス良く混ざり、実に志野らしい美しさに仕上がっています。また、それらの混ざり方に人為的な計画性が見えないのもイイ感じです。
安藤日出武の茶碗は四つ目になるのですが、このように幾つも作品を欲しくなる作家さんというのが何人かいます。作風が私の好みに合うからだと思います。一見どれも同じように見える志野茶碗ですが、やはり作家毎に作風というのがあって、ディープなマニアになると、同じ志野茶碗であっても作品を見ただけで作者を当てる事が出来たりするそうです。流石に私はそこまでではないですが、作家毎に作風というのがある事については何となく分かるような気がします。そして、この茶碗は安藤日出武らしい仕上がりになっていると感じます。
つづく
加藤芳比古-1 赤志野茶碗 高台と掻き銘 [志野]
加藤芳比古の赤志野茶碗の高台と掻き銘です。高台の写真では、茶碗正面を上にしています。
高台は乱れのある真円で、高さはやや低め、直径は志野としては普通くらいでしょうか。高台内の兜巾は低くなだらかになっています。
土見せから見える陶土は、鉄分の多い赤色ですが、こういう土は赤志野で良く使われます。また、その土見せのザクザクと荒く削った仕上げは、志野らしい味わいを醸し出しています。
掻き銘は「芳」です。彫りが浅い上に、周囲の土見せがザクザクしているので、ちょっと見落としてしまいそうになります。
という事で、加藤芳比古の赤志野茶碗でした。際立った個性がある訳でもなく、ちょっと固い造形ではありますが、赤志野としての味わいに富んだ良い茶碗だと思います。
おわり
加藤芳比古-1 赤志野茶碗 見込み [志野]
加藤芳比古の赤志野を上から写しています。写真では茶碗正面を下にしています。
上から見るこの茶碗は、少々乱れのある真円形をしています。横から見るとスクエアで、上から見ると真円ですから、全体的に少し固い造形であると言えそうです。
口縁は分厚く、全体としての厚みも結構ありますから、器の重量はそこそこあります。一般的に志野焼の茶碗は大きく分厚く重たい器である事が多いですが、重たい茶碗を嫌う方もいらっしゃるようで、その辺が志野焼茶碗を好きになれるかどうかの一つの境目になっているかも知れません。
口縁部の造形は比較的均一で、飲み口が特に設けられているようではありません。見込みの底の茶溜りの直径は大きく、深さは浅いので、茶溜りを意識的に造形してはいないかも知れません。こういう所は、茶道用の器として意識的に造形されてはいない素朴さを感じます。
一方、白色と緋色の出方・混ざり方は非常に美しく、志野焼の美点が見事に現れています。
つづく
加藤芳比古-1 赤志野茶碗 背面と両側面 [志野]
加藤芳比古の赤志野茶碗を各方向から写しています。上の写真が背面で、二枚目が正面向かって左側面、三枚目が右側面(掻き銘側)です。
これらの写真を撮影した際に、向きが微妙にずれてしまって、それぞれ完全に90°ずつ方向転換しているという訳ではないのですが、おおよそ全体像は見ていただけていると思います。
背面では長石釉が流れた白色の部分と緋色の部分とのコントラストがはっきりしていて、赤志野らしい景色になっています。コントラストが明確な部分は左側面にもありますが、右側面に於いては白色と緋色の境目がグラデーションになっています。このように部分によって色の出方や混ざり方がランダムに変化して行くのは、志野焼の美しさを構成する一つの大きな特徴です。
一方、各方向から見るシルエットに関しては、やや単調です。右側面で胴の段が殆ど消えているという違いぐらいしかありません。この辺りをどう評価するかで、この茶碗に対する好みが分かれそうです。
つづく
加藤芳比古-1 赤志野茶碗 正面 [志野]
美濃の作家・加藤芳比古(1946-)の赤志野です。写真では、私の気に入っている所を正面としています。この向きを正面とすると、高台脇の掻き銘は、向かって右奥辺りに来ます。
加藤芳比古は、鬼志野で有名な月形那比古(1923-2006)の内一番弟子であったという事で、さぞかし大胆な作風なのかと思いきや、ネット上の中古市場とかに出回っている作品を見ていると、そこまでゲロゲロ前衛的な作風ではなく、現代では比較的オーソドックスとも言える志野を作っているように見えます。
今回の赤志野茶碗についても、赤志野として大雑把に見れば「普通」の範疇で、強烈に個性的という訳ではありません。
どっしりとした器はちょっとスクエアな半筒のシルエットをしており、胴には段がついていてアクセントになっています。釉薬の流れに大きな立体感はありませんが、多く開いた気泡や縮れが志野らしい味わいを出しています。橙色に近い緋色も綺麗ですし、腰の辺りにある指跡もアクセントになっていて味わい深いです。
現代陶芸作家による赤志野茶碗として、しっかり鑑賞に堪え得る良作だと思います。
つづく